転職や移住を考えるとき、都道府県別の「1人当たり県民所得」ランキングを参考にする人もいるかもしれません。実際に見てみると、東京都が突出して高く、次いで自動車や電機などの製造業が集積する県が続く傾向があります。この数字だけを見て「この県で働けば給料が高い」と考えてしまいがちですが、実はこの指標は個人の給与水準を直接示すものではありません。
県民所得は、雇用者報酬(給与)だけでなく、利子や配当といった財産所得、そして企業の利益にあたる企業所得まで含めて合計した数字です。つまり、その都道府県内で活動する企業の業績が良ければ、たとえ従業員個人の給与がそれほど高くなくても、県民所得は押し上げられます。製造業の大規模工場が集積する県が上位に来やすいのは、企業所得の大きさが影響しているためで、そこで働く個人の手取りがそのまま高いとは限りません。
また、この指標は「1人当たり」という言葉がついていますが、割っているのは就業者数ではなく総人口です。子どもや高齢者など働いていない人も含めた人口で割っているため、同じ経済規模でも高齢化が進んで人口に占める非就業者の割合が高い県では、数字が相対的に小さく出る傾向があります。逆に、現役世代の比率が高い県は数字が押し上げられやすくなります。
実際に自分の手取りや暮らし向きに近い数字を知りたい場合は、県民所得よりも厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」など、個人の給与そのものを調べた統計のほうが実態に近いといえます。県民所得は、あくまで都道府県という経済の単位全体の豊かさを測るためのマクロな指標として捉えるのが適切です。
この点は、当サイトの貯蓄現在高データと比較するとさらに分かりやすくなります。県民所得で全国1位の東京都は、2人以上世帯の貯蓄現在高で見ると8位に後退し、代わって所得2位の愛知県が貯蓄額では1位に立ちます。相関係数を計算しても所得と貯蓄額の関係はr=0.517と中程度にとどまり、「稼いでいる地域」と「貯めている地域」は必ずしも一致しません。東京都のように所得は高くても、家賃・物価の高さから来る生活コストの重さが、手元に残る貯蓄を押し下げていると考えられます。県民所得だけを見て「この地域は豊か」と判断すると、家計の実際の蓄えという別の側面を見落とすことになります。
当サイトの県民所得ランキングも、地域経済の規模感をつかむための入り口として活用しつつ、個々人の生活実感とは別の物差しであることを意識して読んでいただければと思います。より暮らし向きに近い実感をつかみたい場合は、貯蓄現在高・持ち家比率のダッシュボードもあわせて確認することをおすすめします。