「奈良県 年収」や「奈良県 平均年収」と検索してこのページにたどり着いた方も多いかもしれません。結論から言うと、奈良県の平均年収は全国9位という高水準です。ところが、同じ奈良県の「県民所得」を見ると、全国39位という下位グループに沈みます。同じ県の経済状況を示しているはずなのに、どちらの統計を見るかで評価が正反対になる——この謎を解くカギは、県民所得と平均年収という、似ているようで実は別の統計の違いにあります。
県民所得は、都道府県という経済単位全体の指標であり、個人の給与実態を示すものではありません。この違いがどれくらいのものか、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」をもとにした「平均年収」データと比べることで、具体的な数字として確認できます。
平均年収ランキングでは東京都が598.95万円で1位、続いて神奈川県・大阪府・愛知県・兵庫県と、県民所得ランキングともある程度重なる大都市圏が上位を占めます。相関係数を計算するとr=0.739と、中程度から強めの正の相関があり、大まかな傾向は一致しています。しかし、個別に見ていくと大きく順位がずれる県があります。中でも際立っているのが奈良県で、県民所得ランキングでは全国39位(下位グループ)だったのに対し、平均年収ランキングでは全国9位に跳ね上がります。
この30ランクもの差は、奈良県の特殊な事情を反映しています。奈良県は「昼間人口比率」が全国で最も低い県の1つで、多くの住民が大阪府・京都府へ通勤しています。県民所得は「その都道府県内で生み出された経済活動」を基準に計算されるため、奈良県に住みながら大阪で働く人が稼いだ所得や納めた税金の多くは、統計上「大阪府の経済活動」としてカウントされ、奈良県の県民所得には十分に反映されません。一方、平均年収(賃金構造基本統計調査)は「その都道府県に住む人が実際にいくら稼いでいるか」に近い形で集計されるため、大阪・京都で高い給与を得て奈良に持ち帰って暮らす人々の実態が、より正確に数字に表れます。奈良県以外にも、神奈川県・埼玉県・千葉県のような東京近郊の「通勤県」は、同様の構造によって、県内総生産ベースの指標より個人の年収ベースの指標のほうが良く見える傾向があります。
この現象は、当サイトの人口密度の記事とも関連します。奈良県は人口密度・県民所得のいずれも中位から下位に位置する一方、住民の「暮らし向き」という点では、大阪・京都という高賃金の都市圏に通勤できる立地の恩恵を受けている可能性があります。県境をまたいだ通勤圏という実態は、都道府県単位の統計では捉えきれない「見えない豊かさ」を生み出していると言えるかもしれません。
平均年収と貯蓄現在高の相関係数もr=0.727と高く、稼ぎの実態に近い指標同士は、県民所得よりも強く連動する傾向があります。当サイトの県民所得・平均年収・貯蓄現在高、3つのランキングを見比べることで、「その地域で生み出される経済活動の規模」「個人が実際に得ている給与」「家計に蓄えられている資産」という、似ているようで異なる3つの物差しを使い分けられるようになります。