「都会は治安が悪い」というイメージは、データにどこまで裏付けられているのでしょうか。人口1千人あたりの刑法犯認知件数を都道府県別に見ると、大阪府・愛知県・福岡県・京都府・東京都といった大都市圏が上位に並び、秋田県・岩手県・山形県といった地方の県は下位に位置する傾向があります。この結果だけを見ると「大都市は治安が悪い」という印象を持ちやすいですが、いくつか補って考えたい点があります。
1つ目は、この指標が「認知件数」を「住民登録人口」で割っているという点です。大都市には、昼間は通勤・通学・買い物などで多くの人が流入し、夜間人口よりも実際にその場にいる人の数(昼間人口)がかなり多くなります。犯罪は住民だけでなく、その地域を訪れている人が被害者・加害者になることも多いため、住民登録人口だけを分母にすると、昼間人口が多い都市部の数字が実態以上に高く出やすい構造があります。
2つ目は、「認知件数」は警察が把握した件数であり、実際に発生した犯罪の総数そのものではないという点です。都市部は交番や防犯カメラが多く、被害届の提出率や検挙率も地域によって差があるため、認知件数の多さが必ずしも「犯罪が起きやすい」ことだけを意味するとは限りません。
3つ目は、この指標が殺人から万引きのような軽微な窃盗犯まで、あらゆる刑法犯を合算している点です。件数として最も多いのは窃盗犯であることが多く、繁華街やオフィス街を抱える都市部では、置き引きや自転車盗といった軽微な窃盗の件数が全体を押し上げやすい傾向があります。凶悪犯罪に絞って見ると、また違った順位になることも珍しくありません。
実際に当サイトの人口密度データとの相関係数を計算すると r=0.528 と、中程度の正の相関が確認できます。これは犯罪発生件数だけの特別な傾向ではなく、当サイトの記事「人口密度は、所得とも、犯罪率とも、持ち家比率とも相関する『万能変数』だった」で見たとおり、人口密度が「都市化の進み具合」を映すいくつもの指標と同時に連動しているためです。一方で、当サイトの交通事故死者数(人口10万人あたり)は逆に、香川県・高知県のような地方の県で高く、東京都・大阪府のような都市部で低いという、犯罪発生件数とは正反対の分布を示します。同じ「治安・安全」というくくりでも、刑法犯の発生率と交通事故の死亡率では、都市と地方のどちらが「危険」かという評価がまったく逆転するという点は、覚えておく価値があります。
当サイトの犯罪発生件数ランキングは、あくまで「刑法犯全体」を人口で割ったシンプルな指標です。体感的な治安の良し悪しを判断する際は、犯罪の種類別の内訳や、検挙率、時間帯別の発生状況といった、より詳しい警察庁の統計もあわせて確認することをおすすめします。あわせて、当サイトの交通事故死者数・人口密度のダッシュボードも見比べると、「安全」の意味が指標によって違う方向を向いていることがよく分かります。