経済産業省が伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)に基づいて指定する「伝統的工芸品」は、2025年10月27日時点で全国に244品目あります(都道府県をまたいで指定される品目があるため、都道府県別の指定数の単純合計とは一致しません)。都道府県別に指定数を見ると、意外にも最多は東京都で23品目です。江戸切子、江戸木目込人形、東京銀器、東京手描友禅、多摩織など、江戸時代から続く職人の技が、今も都内各地の工房に受け継がれています。2位は新潟県と京都府で、ともに17品目です。
「伝統工芸品」と聞くと、京都や金沢のような歴史的な城下町を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし東京都は、江戸時代に将軍家や大名家の御用達として発展した職人町(浅草・日本橋周辺など)を数多く抱えており、江戸切子や江戸木版画のように「江戸」を冠する工芸品が集中しています。明治以降も首都として全国から職人や需要が集まり続けたことが、指定数の多さに表れています。
4位は沖縄県(16品目)です。久米島紬・読谷山花織・琉球びんがた・壺屋焼など、独自の歴史と気候風土の中で育まれた染織・陶芸文化の厚みがうかがえます。5位は愛知県(15品目)で、有松・鳴海絞、常滑焼、瀬戸染付焼など、窯業から染織まで幅広いジャンルの工芸品を抱えています。新潟県は小千谷縮・塩沢紬・加茂桐箪笥・燕鎚起銅器など、雪深い気候の中で育まれた副業的な手仕事の伝統が背景にあり、京都府は西陣織や京友禅、清水焼など、公家文化・寺社文化に根ざした工芸品が中心です。同じ「伝統的工芸品の多さ」でも、その土地がどのような歴史を歩んできたかによって、工芸品の性格はまったく異なります。
当サイトの国宝・重要文化財の記事とあわせて見ると、東京都は近代以降に「集められた」文化財が多い一方、伝統的工芸品では江戸期からの職人町としての厚みが数字に表れているという、また違った顔が見えてきます。
伝統的工芸品の指定制度そのものにも、地域差を考える上で興味深い歴史があります。この制度の根拠となる伝産法が公布されたのは1974年(昭和49年)で、高度経済成長期の大量生産・大量消費文化への反省と、後継者不足・原材料の入手難に苦しむ産地を支援する目的で作られました。指定は一度に全て決まったわけではなく、時間をかけて少しずつ増えてきた経緯があります。例えば千葉県と熊本県は2000年時点では指定品目がゼロでしたが、2003年にそれぞれ1品目・3品目が初めて指定されました。
特に象徴的なのは北海道です。北海道は、先住民族アイヌの工芸文化を持ちながらも、文字による記録が口承中心であったため「100年以上続く伝統技術」という指定要件を文献で示すことが難しく、長らく指定品目がゼロの状態が続いていました。ようやく2013年(平成25年)2月に、日高振興局管内の二風谷地域で作られる2つの工芸品が指定を受け、これによって47都道府県すべてに1品目以上の伝統的工芸品が存在する状態が実現しました。東京都の23品目という数の多さの裏側には、北海道のように指定に至るまで長い時間を要した地域もあるということです。
指定品目の数だけを見ていると気づきにくいですが、伝統的工芸品業界全体としては、生産額・従事者数ともに減少傾向が続いています。経済産業省の資料によれば、伝統的工芸品全体の生産額は平成28年度(2016年度)に1,000億円を下回って以降、緩やかな減少が続いており、従事者数も令和2年度(2020年度)時点で約5万4千人まで減少しています。職人の高齢化が主な要因とされる一方で、女性の伝統工芸士が占める割合は増加傾向にあるとされています。指定品目数という「文化の厚み」を示す数字と、生産額・従事者数という「産業としての現在地」を示す数字は、別々に見る必要がありそうです。単純な指定数の比較だけでなく、こうした制度の歩みや産業としての現状も含めて見ると、ランキングの見え方がまた変わってきます。