「電灯使用電力量」という指標だけでは、実は家庭の電力消費を正確には測れません。契約種別(電灯契約)に基づく集計のため、商業施設なども混在してしまうからです。そこで資源エネルギー庁が公表する「都道府県別エネルギー消費統計」をもとに、電力消費を産業部門・家庭部門・業務他(オフィスや店舗など第三次産業)の3つに分解したデータを見てみます。家庭部門だけに絞ることで、より純粋に「暮らしの中での電力消費」が見えてきます。
この分解によって見えてくるのが、東京都の特異な姿です。電力消費量の合計値では、人口が多い東京都が突出して多くなるのは当然ですが、内訳を見ると、産業部門の消費量はむしろ全国で少ない部類に入ります。東京都は製造業の集積地ではなく、オフィスや店舗が中心の「業務他」部門と、高層マンションや戸建てが集積する「家庭部門」の消費が全体を押し上げているのです。逆に、愛知県は電力消費量合計こそ東京都に次ぐ水準ですが、その内実は産業部門(自動車産業を中心とした工場群)が突出しており、当サイトの製造品出荷額等ランキングで見た「ものづくりの愛知県」という顔と、この電力消費の内訳は見事に符合しています。
家庭部門の電力消費量だけを見ると、大阪府・東京都・神奈川県・愛知県・埼玉県といった人口の多い都市圏が上位に来る一方、これを人口で調整すると(当サイトの1人あたり電力消費量ダッシュボード)、住宅の広さや世帯構成の違いが色濃く反映されるようになります。総務省「令和2年国勢調査」によると、1世帯あたりの平均世帯人員は全国平均2.21人に対し、東京都が1.92人と全国最小、山形県が2.61人と全国最大でした。世帯人員が多いほど1世帯あたりの家電使用量や照明・空調の稼働時間は増える傾向があるため、家庭部門の電力消費量には、人口の多寡だけでなく、こうした世帯構成の違いも影響していると考えられます。
単純な電力消費量の総額だけでは見えなかった、産業構造や暮らし方の違いが、部門別のデータに分解することで、はっきりと浮かび上がってきます。実際、家庭部門の1人あたり電力消費量と製造品出荷額(人口あたり)の相関係数を計算すると、r=-0.077とほぼ無相関で、家庭部門の電力消費が産業構造とは独立した、純粋に暮らし方を映す指標であることが裏付けられました。
統計データは、集計の粒度をどこまで細かくするかによって、見える景色がまったく変わります。今回のように、1つの大きな数字を用途別・部門別に分解するという操作は、当サイトが繰り返し使ってきた「人口や面積で割る」操作とは違う、もう一つの分析の型です。今後も、可能な限り粒度の細かいデータを探し、より正確な地域の実態に近づけていきたいと考えています。