医師の数には、東日本と西日本ではっきりとした偏りがあります。人口10万人あたりの医師数を都道府県別に見ると、徳島県・東京都・京都府が300人前後で上位を占め、逆に埼玉県・茨城県・千葉県は150〜170人台と、上位の半分近くにとどまります。この分布を地図で見ると、西日本の県が軒並み上位に、東日本、特に東京近郊のベッドタウン県が下位に集まる「西高東低」の傾向がはっきり表れます。
この地域差を生む最大の要因は、医学部を持つ大学の分布だと考えられています。徳島県・京都府をはじめ西日本には歴史の長い医学部が数多く存在し、地元で学んだ医師がそのまま地元に定着する傾向があります。一方、埼玉県・茨城県・千葉県のような東京近郊の県は、医学部の数が少ないうえに、都心部への通勤圏という性格上、医師も都心の病院に勤務先を求めやすく、居住地としての人口規模に対して医師数が追いつかない構造になっています。東京都自体が上位に入っているのは、大学病院や大規模な医療機関が集積しているためで、周辺のベッドタウン県とは対照的な結果になっています。
興味深いのは、当サイトの県民所得データと相関係数を計算すると、r = -0.005 とほぼゼロだったことです。「所得が高い豊かな県ほど医療も充実している」という直感的なイメージとは裏腹に、医師数の多さと地域の経済的な豊かさには、統計的にはほとんど関係が見られません。医師の配置は、住民の所得水準ではなく、医学部の立地や医療機関の歴史的な集積によって主に決まる、という構造がここからも読み取れます。
同様に、当サイトの病院数(raw件数)との相関係数も r = 0.090 と、ほとんど連動していませんでした。病院の「数」が多いことと、医師が「密に」配置されていることは、また別の話だということです。病院数が多くても、1施設あたりの医師数が少なければ、人口あたりの医師数はそれほど高くなりません。逆に、病院数はそれほど多くなくても、大学病院のような大規模施設に医師が集中していれば、人口あたりの医師数は高くなり得ます。
医師数の地域差は、しばしば「医師不足」として社会問題化しますが、その背景には所得水準ではなく、医学部の立地という歴史的・制度的な要因が大きく関わっています。当サイトの人口10万人あたり病院数のダッシュボードとあわせて見ると、「病院の数」と「医師の密度」がそれぞれ異なる論理で決まっていることが、より具体的に見えてきます。