「喫茶店が多い県」と聞かれて、長野県を思い浮かべる人は少ないかもしれません。実際、喫茶店の軒数を都道府県別に見ると、東京都が31,841軒で圧倒的な1位、続いて愛知県、大阪府と、人口の多い大都市圏が上位を占めます。ここまでは、当サイトでこれまで見てきた病院数や大学数と同じ、おなじみの並びです。しかし、これを人口10万人あたりに調整すると、話はまったく変わってきます。
人口で調整したランキングで全国トップに立つのは、総数では8位だった長野県です。長野県は「喫茶店文化」が根付いていることで知られる県で、モーニングサービスを提供する昔ながらの喫茶店が今も数多く営業を続けています。長野に次いで、富山県・福井県といった北陸勢が上位に食い込みます。総数ランキングの常連である東京都・大阪府は、人口10万人あたりで見ると東京都が28位、大阪府もそれに近い順位まで後退し、「喫茶店が多い街」という印象とは裏腹に、住民1人あたりの喫茶店との距離感で見れば、実は長野県のほうがずっと身近な存在だということが分かります。
特に注目したいのは、人口あたりランキングの上位6県の顔ぶれです。1位長野県、2位富山県、3位福井県、4位石川県、5位岐阜県、6位愛知県と、実はすべて中部・東海地方に集中しています。単に「長野県が特別」なのではなく、中部地方全体が広く「喫茶店密度の高いベルト地帯」を形成しているというのが、より正確な見方です。北陸新幹線や東海道本線でつながるこの一帯に、共通の喫茶店文化が根付いていると考えると、県境を越えた地域文化の広がりが見えてきます。
この結果は、当サイトの大学数や国宝・重要文化財数のランキングで見てきたパターンと驚くほどよく似ています。総数では東京都・大阪府のような人口の多い大都市圏が圧勝する一方、人口で調整すると、特定の文化・産業が根付いた「隠れた集積地」が浮かび上がってくる、というパターンです。喫茶店文化についても同じ構造が働いているのは興味深い点です。
なぜ長野県で喫茶店文化がこれほど根付いているのか、明確な単一の理由があるわけではありませんが、名古屋を中心とした東海地方の「モーニング文化」が地理的に近い長野県にも波及したという説や、寒冷地であるために喫茶店が地域の社交場・待ち合わせ場所としての役割を強く担ってきたという見方があります。愛知県が総数でも2位(25,473軒)に入っているのも、この東海地方の喫茶店文化の厚みを裏付けています。
データを総数のまま見るか、人口で調整して見るかで、同じ「喫茶店」という一見軽い話題からも、地域文化の厚みという、統計的に裏付けられた発見が得られます。当サイトのものづくり・堅実度指数でも、群馬県・岐阜県・三重県といった中部・東海の内陸県が上位に並ぶ傾向があり、喫茶店密度の高さとある程度重なる顔ぶれです。堅実な地域性と、昔ながらの喫茶店文化が根付きやすい土地柄には、何らかの関連があるのかもしれません。次に地元の喫茶店に入ったら、この土地の喫茶文化の厚みを、少しだけ意識してみるのも面白いかもしれません。
余談ですが、運営者の私が個人的に一番好きな統計は、実はこの喫茶店のようなデータです。人口や産業といった定番の指標も面白いのですが、「この県がこんなに多いんだ」と思わず「へぇ」と声が出るような数字には、地域の文化や歴史がふとにじみ出ていることがあります。数字をきっかけに、知っているはずの地域の新しい一面を発見できるところに、統計の面白さを感じています。