国宝・重要文化財の総数を人口10万人あたりに調整すると、奈良県・滋賀県・和歌山県といった県が上位に浮上します。では、人口ではなく「面積」で割ったらどうなるでしょうか。同じ総数のはずなのに、上位の顔ぶれがまた少し変わってきます。
面積100km²あたりで見ると、東京都が124.4件で1位、京都府が46.5件で2位になります。人口あたりの指標では5位まで後退していた東京都が、面積で割ると再び1位に返り咲くのは、東京都の面積が2,194km²と全国で3番目に狭く、総数2,729件という規模をこの狭い面積に押し込めているためです。京都府は総数・建造物数ともに豊富ですが、面積が東京都の2倍以上(4,612km²)あるため、密度としては東京都に及びません。
この違いは、「人口あたり」と「面積あたり」という2つの調整方法が、まったく異なる問いに答えていることを示しています。人口あたりの指標は「その土地に住む人にとって、文化財がどれだけ身近にあるか」を表すのに対して、面積あたりの指標は「その土地そのものに、文化財がどれだけ密集しているか」を表します。京都府のように市街地が小さくまとまっている地域は、後者の指標で特に強さを発揮します。
観光という文脈で考えると、面積あたりの密度が高い地域は、狭いエリアの中で効率よく複数の文化財を巡ることができるという意味で、旅行者にとって「歩いて回りやすい」地域だと言えます。ただし東京都の密度の高さは、美術工芸品(博物館収蔵品など移動可能な文化財)が近代以降に集積した結果である一方、2位の京都府は寺社仏閣という現地に残る建造物が中心で、同じ「密度が高い」でも中身の性質は異なります。実際に街を歩いて巡る楽しさという意味では、建造物数トップの京都府のほうが体感に近いかもしれません。
総数・人口あたり・面積あたりという3つの指標は、それぞれ「規模」「住民にとっての身近さ」「土地としての密集度」という異なる側面を映し出しています。どれか1つが正解というわけではなく、知りたいことに応じて使い分けるのが、統計を読むうえでのコツだといえます。