「米どころ」や「漁業が盛んな地域」と聞くと、都市部の工業地帯や商業地に比べて経済的に厳しいという漠然としたイメージを持つ人は少なくないかもしれません。一次産業中心の地域は所得が低いのではないか、という仮説を、当サイトのデータで実際に検証してみました。
米収穫量と県民所得の相関係数を計算すると r = -0.061、海面漁業漁獲量と県民所得の相関係数は r = -0.048 と、どちらもほぼゼロに近い値でした。つまり、米や魚をたくさん生産している県だからといって、県民所得が低いわけでも高いわけでもない、という結果です。「一次産業=貧しい」という思い込みは、少なくとも都道府県単位の県民所得データからは裏付けられませんでした。
この結果を当サイトの他のデータと重ねて考えると、理由が見えてきます。米収穫量トップの新潟県、漁獲量トップの北海道は、いずれも県民所得ランキングで中位に位置しており、極端に低いわけではありません。これは、これらの道県が一次産業だけに依存しているのではなく、当サイトの製造品出荷額等ランキングで見たとおり、新潟県は機械・化学工業も盛んで、北海道も食品加工業や観光といった多様な産業を持っているためです。一次産業が盛んな地域の多くは、実際には一次産業「も」盛んな、産業構造が多様化した地域だと理解するほうが実態に近いといえます。
逆に言えば、県民所得の低い都道府県を一次産業の観点だけで説明しようとするのは的外れだということです。当サイトの1事業所あたり製造品出荷額の記事で見たとおり、県民所得を左右する最大の要因は、少数の大規模工場や特定の製造業クラスターの有無であり、農業・漁業の規模の大小ではありません。「田舎だから所得が低い」という単純化されたイメージは、データを丁寧に見ていくと、思ったほど単純ではないことが分かります。
この点は、県民所得が最も低い都道府県を具体的に見るとさらにはっきりします。県民所得の最下位は沖縄県(216.7万円)ですが、沖縄県の米収穫量は1,920トンと全国でも最少クラスで、そもそも稲作が盛んな地域ではありません。所得下位に続く宮崎県・鳥取県・鹿児島県・愛媛県も、米収穫量トップの新潟県(631,000トン)や北海道(553,200トン)と比べればかなり少ない水準にとどまります。つまり「米や魚をたくさん作っている県が貧しい」のではなく、「所得が低い県の多くは、そもそも一次産業の生産量自体もそれほど多くない」というのが、より正確な実態です。
人口で調整した「1人あたり」の生産量で見ても、傾向は変わりません。米収穫量(人口千人あたり)と県民所得の相関係数はr=-0.141、海面漁業漁獲量(人口千人あたり)との相関係数はr=-0.261と、いずれもゼロに近いか、わずかに所得と逆方向に動く程度にとどまりました。人口が少ない県ほど1人あたりの生産量が大きく出やすいという調整をかけても、「一次産業の規模と所得が強く連動している」という関係は見えてきません。
ただし、正直に言うと、米収穫量トップ3県の中でも結果にはばらつきがあります。新潟県の県民所得は全国25位とほぼ中位ですが、秋田県は全国37位と、決して高くはありません。「米どころだから所得が低いわけではない」というのは全体としての傾向であって、個別の県を見れば、秋田県のように所得が低めの米どころも確かに存在します。相関係数がほぼゼロだということは、「一次産業の規模だけでは所得の高低を説明できない」ということであり、「一次産業が盛んな県はどこも豊かだ」という逆方向の単純化もまた、実態とは異なります。
米どころ・漁業県というイメージだけで、その県の経済水準を判断するのは避けたほうがよさそうです。参考までに、当サイトの別の記事で紹介したコンビニ店舗数と県民所得の相関係数はr=0.70と強い正の相関でした。同じ「都道府県別のモノの数」でも、所得と強く連動する指標(コンビニ店舗数)と、ほとんど連動しない指標(米収穫量・漁獲量)がはっきり分かれるという点も、興味深い対比です。