もし、公務員としてオープンデータに初めて触れた頃の自分にひとこと伝えられるとしたら、「とりあえず触って、外に出してみた方がいい」と言うと思います。当時の私は、データの正確性や網羅性を重視するあまり、「ちゃんと整理できてから公開しよう」と考えがちでした。もちろん行政という立場上、正確さを軽視していいわけではありません。ただ、完璧を目指して手元に置いている間は、そのデータは誰の役にも立っていない、ということに、もっと早く気づくべきだったと感じています。
このサイトで、そのことを一番体感させてくれたのが、人口・出生率・高齢化率を横断的に比較したランキング記事です。実は、これまで作った記事やダッシュボードの中で、私が一番思い入れを持っているのがこのテーマでした。理由は、「イメージと現実のズレ」が最もはっきり出るテーマだからです。「地方は衰退、都市は成長」という、多くの人がなんとなく持っている認識も、データで見ると必ずしも単純ではありません。都市近郊で人口が増え続けている自治体や、出生率が比較的高いエリアなど、ニュースの印象とは違う実態が見えてきます。データで物事の解像度を上げる、というこのサイトのコンセプトを、一番体現できているテーマだと思っています。
実際に公開してみると、狙い通りの反応と、狙っていなかった反応の両方がありました。多かったのは、「なんとなく感じていたことが、数字で裏付けられてスッキリした」という声です。これは作り手としてとても嬉しい反応でした。一方で意外だったのは、「自分の住んでいる街が思ったより○○だった」という驚きの声です。「人口密度がこんなに高いと思わなかった」「高齢化率が低くて意外だった」など、身近な地域であればあるほど、イメージとのギャップを感じる人が多い印象でした。「このデータって本当に正しいの?」という質問も一定数あり、出典や加工方法をきちんと明示することの重要性を、あらためて意識するきっかけにもなりました。こうした反応は、データを外に出してみて初めて得られるものです。手元で完璧に整えているだけでは、絶対に分からなかったことです。
個人でサイトを運営するようになってから、「データは出すだけでは意味がない」という意識が、以前よりずっと強くなりました。行政にいた頃は、正確にデータを整備し公開することが自分の役割の中心でしたが、それだけでは実際には使われないという現実を、より肌で実感するようになったのです。同時に、物事を見るときに「一つの指標だけで判断しない」癖もつきました。人口だけでなく、人口密度や年齢構成、産業構造を組み合わせて初めて、実態に近づけるという感覚です。
行政の中にいると、「公開すること」自体がゴールになりがちです。しかし本来大事なのは、その先にある「誰かの意思決定や、ちょっとした気づきに役立つこと」のはずです。もう少し気軽に試し、使う人の視点に立ってアウトプットすることを、もっと早く意識できていればよかった——それが、今の私から当時の自分に伝えたい、一番正直な気持ちです。